神社本庁統理告辞

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告 辞

 

 終戦といふ歴史の転換を契機として生まれ、生長を重ねて来たわが神社本庁は、こに十五周年記念の日を迎へました。

 顧みれば本庁の今日あるは、天地神明の霊威に基くことは申すまでもありませんが、未曽有の難局の中にあつて、身を挺して事に当り、力を協はせて道を守つて下さつた皆様の敬神の念と、大同団結の成果である事を思はないわけには参りません。

 神宮を本宗と仰ぎ、全国神社を包括して確固たる活動を行ひつあるわが本庁の発展を祝ふと共に、つつしんで斯界の皆さまの御協力に対して敬意を表すものであります。

 しかしながら、敬神の大道を宣揚し、神明の加護を洽ねからしめる為めには、いよいよ大和をはかり、企画を練り、実践にはげみ、一段と輝かしい歴史を展開するの覚悟を要するでありませう。

 去る昭和三十一年に本庁設立第十周年祝賀大会が催されましたが、その機会に、総裁の御言葉を体し、敬神生活の綱領が発表され、斯界の精神並びに実践に関する方途が明らかにされ、爾来非常な成果が上がつてゐることは誠に喜ばしい次第であります。

 歴史を重ね年を積むと共に、いよいよ斯界の活動が盛んになり、新らしい企画が出来、組織が充実され、躍進がはかられることでありませう。

 私も心からそれを望むものでありますが、同時に、道の根本は精神にあるといふことを思ひ、改めて敬神生活の意義を顧み、その精神を体して実践にはげむならば、本庁の将来は一段と輝かしいものとなるでありませう。

 ここにこの佳日に当り、いささか所信を述べて告辞といたします。

  昭和三十六年二月三日

神社本庁統理 佐々木行忠

 


告 辞

 

 

 神社本庁設立二十周年に当り、つぶさに国家の現状に思ひを致すとき、憂慮に堪へない点が多々あります。終戦直後の神道指令により、全国の神社は国家の管理を離れ、宗教法人として運営せざるを得なくなり、諸種の事情未曽有の難局に遭遇したのであります。それにも拘はらず、神明の加護の下皆様の献身によつて斯道の宣揚をはかり得たことは、まことに御同慶に堪へないところであります。

 時あたかも明治維新百年記念の年を迎へんとしてゐます。明治維新の精神は五ヶ条御誓文に明示されてゐます。特に知識を世界に求め大いに皇基を振起すべしとの仰せ言は、日に新たにこの精神を以て神道を広い立場の上に位置づけ、且つ国本を培ふべきことをお示しになつたものに外なりません。私共は今日この精神を再確認し神社祭祀の本義を堅持し大同団結以て斯道の発展につとめねばなりません。これがためには神社界自らが己れの姿勢を正し、広く氏子崇敬者と手を携へ、神社の公共性を保持し、正しい伝統を守り抜く以外にありません。神社界の自主規制こそが、此の際最も大切な在り方だといはれる所以であります。

 更に来る昭和四十八年には、民族最高の儀典たる第六十回神宮式年遷宮を迎へようとしてゐます。四十三年の明治維新百年記念と四十八年の式年遷宮との完遂に目標を置いて、神社界が自らの力を結集し得るか否かが斯道発展の岐路を決するものといへます。

 神社本庁設立二十周年を迎へた本年は、終戦後漸く成人に達した私共が、今後に処するための重要な転機に立つてゐるといへます。

 ここに本日の式典に当り私自らが思ひを新たにして、率先垂範し、斯道の恢弘に力を致すことをお誓ひします。皆様も私の意のあるところを汲まれ、共に力を致されんことを期待し告辞と致します。

  昭和四十一年五月二十三日

神社本庁統理 佐々木行忠

 


明治維新百年に際しての統理告辞

 

 茲に明治維新百年の記念すべき年にあたり、所信を述べます。思ふに現下、国民思想の動向については、まことに憂慮すべきものがあります。時あたかも明治維新百年を迎へ、往時に思ひをいたすとき、我々、神明に奉仕する者にとつては、今こそ維新の鴻業を翼賛した先人の志を継承して、国民精神を昂揚すべき千載一遇の好機であると信じます。

 我々は、清新なる国運を招来するため、戦後二十余年の歩みをかへりみて、ここに心機を一転、我が国風の立て直しを図らなければなりません。このことは、心ある人々によつて夙に提唱せられ、その活動は既に始まつてをります。

 神職諸氏に於かれては世相がいかにあろうと、正しい国民精神を堅持せられ、平素の神明奉仕に欠くるところなきを望むものであります。

 全国の神職諸氏が、公正なる心構へのもと、皇国の道義を確立し、現代文明の欠如を補はんがために努力せられるならば、必ずや光輝ある祖国の伝統を恢弘し、民心の帰趨を決し得るものといへませう。

 現下の重大時局に鑑み、茲に諸氏の力強い団結と蹶起とを要望します。

  昭和四十三年七月三十日

神社本庁統理 佐々木行忠

 


天長の佳節に当り統理告辞

 

 本日ここに天長の佳節を以て、今上陛下には古稀の御賀を迎へさせられましたことは、国民の斉しく慶びとするところでありまして、昭和の御代の御栄えがここに象徴せられてをります。常に大御心の奉戴を念願とする神社関係者一同としましても、慶びこれに過ぐるものはありません。国民の幸福と国家の平和とを祈念し、世のため人のために奉仕することが叡慮に応へまつる唯一の道であると信じます。

 戦後二十五年、未だに日本国憲法の改正は成らず、伝統の恢復には時を要するとはいへ、数千年来培ひ来つた国体護持の精神を振起し、斯界関係者が心を一つにして、「万世のために太平を開かん」との大御心を深く心に刻み、これを祭祀の上に顕現し、率先垂範、以て国民の間に浸透普及されんことを希望してやみません。

 本日の佳節に当り所懐を述べて告辞とします。

  昭和四十六年四月二十九日

神社本庁統理 佐々木行忠

 


統理告辞

 

 待望久しかつた神宮の式年遷宮は、畏くも天皇陛下の御治定を仰ぎ、昨秋めでたく御斎行に相成りました。私どもは、その厳儀を拝し、そこにわが民族生命の輝かしき新生を実感するとともに、次期遷宮に向つて斯界挙り、邁進することを強く決意致した次第であります。本年はまさに、その第一歩を踏み出すべき歳であることを心に銘記し、神明奉仕、伝統護持の使命感を一層つよくして、大いに神威発揚、教化活動の実を挙げたいと念ずるものであります。

 今やわが国の現状は、戦後の経済成長第一主義による繁栄の虚像が、昨年末以来崩壊し、本年は更に、政治、社会の全面にわたる深刻なる危機の到来が予想されます。しかのみならず、その予想される社会混乱を機に、本年は、ますます国体の変革、伝統の破壊を企図する動きが表面化するであらうことも覚悟せざるを得ない情勢にあります。従つて今こそ神道精神の恢弘を期して神社界各位の奮起が、最も強く要請されるのであります。

 祖国日本が未曽有の危局を迎へんとしつつあるこのとき、私どもの祖先がかつて国家の危機に際会して、常に、皇室を中心に一致団結、もつてみごとに難局を克服し得た光栄ある歴史を想起し、敬神尊皇の大旆を更に高く掲げて、年来推進して来た国民精神昂揚運動をいよいよ力強く展開せねばならないことを深く心に期するものであります。

 昭和四十九年の年頭に当り、全神社人各位の一層の緊張と覚悟とを切望し、敢て告辞と致します。

  昭和四十九年一月一日

神社本庁統理 佐々木行忠

 


今上陛下御在位満五十年に当り統理告辞

 

 本年天皇陛下には、御位につかれてから満五十年をお迎へになられました。誠に慶祝の至りに堪へません。私どもは昨年全神社界を挙げて、その意義の闡明に努め、また諸種の行事を行つて慶祝の意を表すとともに、政府、国会に対し国の主催を以て記念行事を持つやう要請して参りました。幸ひ本日、政府は、両陛下の行幸啓を仰いで祝典を執り行ふことになりました。

 この秋に当り、私は神道人各位とともに今上陛下の弥栄をお祈り申上げ、併せて私どもの決意を固めたいと思ひます。

 陛下の御治政は御歴代中最も永くなられ、その間紀元二千六百年祝典の如く国威の隆昌をみたこともありましたが、また、一方には已むを得ざる戦乱、終戦に伴ふ艱難の時期もありました。

 国民は、この五十年間喜びにつけ、悲しみにつけ、常に陛下を仰ぎつつ過して参りました。これこそが正に国民統合の象徴たる天皇と国民との正しい姿であつたと思ひます。そしてこの間、時代の激流にも拘らず陛下には、皇祖を祀る諸祭儀を欠かせらるゝことなく、また神社祭祀についても常に御心をおかけいただきましたことは、誠に恐懼感激の極みであります。

 私どもは、この間神社制度の改変に伴ひ、全国神社を結集して神社本庁を創設し、本年はその三十周年を祝ふことが出来ましたが、今上陛下の大御心を体し、いよいよ神社祭祀の厳修に努めるとともに、国民教化の第一線に挺身し、神ながらなるわが国の正しい姿が一日も速く恢弘され、叡慮を安んじ奉るやう、互に心を一つにして努めて行きたいと思ひます。

 本日の嘉節に当り、特に祝意を表すとともに今後の努力を誓ふものであります。

  昭和五十一年十一月十日

神社本庁統理 徳川宗敬

 


神社本庁憲章施行に当り統理告辞

 

 今や敬神尊皇の大道を愈々恢弘宣布すべき秋に当り、本年五月の評議員会において、多年の懸案であつた神社本庁憲章が全会一致で議決され、本日施行の運びとなりましたことは、洵に御同慶の至りであります。

 本憲章は神社祭祀の伝統と、神社本庁の歩みをふまへ、多くは不文のまゝ実践躬行されてきた基本的な精神規範を更めて明文化し、以て次の世代に道統を正しく伝へんとするものであります。

 顧みれば、神社本庁は戦後荒廃の最中、全国神社関係者の総意により設立されて以来、神明の御加護と関係者各位の御尽力によつて、幾多の苦難を乗り越え、年を重ねて充実興隆を遂げ、明るい将来の展望が開けつゝあります。

 一方、現下の社会情勢は激動と混迷を極め、道義の頽廃はまた目に余るものがあり、心ある人々の神社界に寄せる期待はまことに大なるものがあります。これに応へる為にも、斯道の精神的な大同団結が必要であります。

 私はこゝに、率先して本憲章を尊重遵守し、以て神社本庁の嚮ふところを垂範する決意であります。関係者各位も、本憲章を全国神社統合の精神的紐帯として和衷協同し、愈々斯道の恢弘発展と、国民精神の昂揚振作に力を致されんことを希つてやみません。

  昭和五十五年七月一日

神社本庁統理 徳川宗敬

 


統理告辞

 

 神社本庁はさきに設立四十周年を記念し、代々木の杜を仰ぐ清澄の地を卜して庁舎の新築を発起したところ、全神社界を挙る協力により本日めでたく竣功をみたことは洵に御同慶の至りであります。

 顧みれば、若木の丘の旧庁舎に於いて発足したわが神社本庁は関係者一致団結、次々に時艱を克服して道統を護持し民族精神の恢弘に努めて参りました。然しながら、斯界の内外に山積する諸問題は時代の推移と共に益々多岐に亙り、且つ迅速なる対応を迫られて居ることは更めて申すまでもありません。

 時恰も、第六十一回神宮式年遷宮奉賛活動開始の機に臨み、斯界の使命また重大なるものがあります。この記念すべき日に当り関係者一同思ひを新にし、清明を以て愈々祭祀の厳修に力め、和衷協同益々斯道の振興に挺身し、畏き神明の加護に報い奉らんことを期すべきものと存じます。

 茲に懐ふ所を述べて告辞とします。

  昭和六十二年五月十二日

神社本庁統理 徳川宗敬

 


統理告辞

 

 昨年九月十九日夜半より、御病気俄に改まると承り、国民挙つて御平癒を奉禱申上げてまゐりましたが、昨日、遂に登遐せられ給ふとの告知に接し、只々恐み悲傷流涕し奉るのみであります。

 全国神社関係者は、ひたすら奉悼の至誠をもつて、謹慎致しますとともに、遠津御祖の御代より今に至るまで、厳しくも伝へ来ませる天津日嗣の随に

 今上陛下が直ちに践祚遊ばされ、皇統の連綿と受け継がれて毫も揺るぎなきを拝しまして、国の道統を護持し、世の修理固成に努め、以つて鴻業を輔翼し、洪恩に応へ奉る覚悟を新たに致したく存じます。

 諒闇といふ常ならぬ時ながら、全国神社関係者は、祭祀の厳修と神社奉護に一層の留意を致し、敬神尊皇の志を堅くして、教学の振興と実践とに精励してゆきたいと思ひます。

 哀悼の念耐へ難きを忍びつつ、ここに告辞と致します。

  平成元年一月八日

神社本庁統理 徳川宗敬